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【事例6選】地域活性化×林業
~長野県編~

みなさんこんにちは、コラム担当のあらぽんです。

林業は地域にとって豊かな自然環境と経済的な利益をもたらす重要な産業です。
しかし、人口減少や高齢化により、林業を支える若手の人材不足問題に対しての課題解決や、技術の進化に対応していく必要があります。そこで、地域活性化の一つの手段として、林業の新たな可能性を模索する取り組みが行われています。本記事では、長野県を例に、地域活性化の観点から注目すべき林業の取り組みについてご紹介いたします。

日本の林業について


日本の森林総面積は、約2500万ヘクタールあり国土面積の約2/3が森林と言われています。林業従事者の数は減少傾向で推移しており、2010年は約5万1000人、2015年には約4万5000人、2020年時点では約4万4000人となっています。

また、林業の高齢化率(65歳以上の割合)について2020年は25%、全産業平均の15%に比べ高い水準となっています。一方で、若年者率(35歳未満の割合)については、全産業が減少傾向であることに対して、林業では1990年以降増加傾向で推移し、2020年には17%となっています。

林業に興味関心のある若者を対象に、2015年に厚生労働省が実施した緊急雇用対策である「緑の雇用担い手育成対策事業」(緑の雇用)では、林業の基本的な技術等を取得するための支援として研修を実施するなど、将来の担い手を育成する対策を進めています。

「緑の雇用」事業の取り組みによって、事業実施前は年間平均約2000人の新規就業者だったところから、事業実施以降には年間平均約3200人にまで増加を、2021年度は3049人と新規事業者は増え続けています。

長野県の林業の特徴とは


長野県は、県土面積135万6000ヘクタールで約8割に当たる105万7000ヘクタールが森林となっており、森林面積、森林率ともに都道府県ごとの順位で第3位です。
多様な自然と豊かな森林資源を有していて、その中でも林業は長野県において重要な産業の一つであり、国内有数の木材生産地として知られています。


また、森林の維持管理、木材の生産、加工、販売、そしてそれに関連した事業など、多岐にわたります。自然環境保全にも深く関わっており、森林の維持管理に取り組むことで、土地の保全や自然災害の軽減、物資サイクルの実現など、地域の持続的な発展に貢献しています。


一方で、日本全体における森林の間伐量は近年減少傾向にあり、そのため森林が崩壊し、生態系が損なわれるなど、様々な問題が指摘されています。長野県はこの問題に対し、従来型の林業を継続することで、森林の維持管理や木材の生産を行いながら、持続的かつ社会的な発展を目指しています。


さらに、「高齢化」「過疎化」など、それぞれの地域にある課題に対して、地域資源を活用し、地域経済を活性化することが求められています。林業を通じた地域活性化に取り組むことで、農村地域の雇用が増加したり、観光業の振興が期待できたりと、より良い地域社会の実現に寄与しています。


まとめると、長野県の林業は、森林の維持管理や木材の生産、加工、販売まで多様な事業に取り組みながら、地域の持続的な発展に貢献しています。また、地域の木材を有効活用することで、地域活性化にも貢献しています。これからも、地域社会の発展に向け、積極的に取り組み続けていくことに期待が高まります。

林業の代表的な取り組み事例【3選】


今回は3つの事例をご紹介します!

1.佐久地域における林業のDX化を推進

【林業の発展に向けたスマート林業の取り組み】

佐久森林組合では、森林資源の調査や作業員の労務管理にドローンやICTを活用しています。

森林資源の調査では、ドローンで撮影した空中写真のオルソ化ソフトを使用し、正確な位置や大きさを確認。立木の本数や材積を試算し、調査にかかる労務費を削減しつつ、収益や費用の見積りの精度を上げてより良い施業提案をするよう取り組んでいます。

また、勤務状況の集計では、技能職員が勤務データをスマートフォンアプリのクラウド(スプレッドシート)に直接入力することでペーパレス化・省力化をしています。事務経費を減らすとともに、工事現場ごとの原価データを職員が共有することで作業内容の分析や改善を行っています。
林業の持続的かつ健全な発展を図るためには、先端技術を活用して生産性や安全性を高めることが重要となり、ICT等を活用して資源管理や生産管理を行うスマート林業に取り組んでいる事例です。

2.北アルプス地域における地域産の木を地域で使う取り組み

【地域資源を地域で活用】

北アルプス地域の民有林(国が所有している国有林以外の森林のこと)は約2/3が広葉樹で占めているものの、広葉樹資源はあまり活用されていない状況でした。
そんな中、地域産の木を使いたいという声が地域の作品製作を行う方から寄せられ、木を伐採する川上側、製材する川中側、作品を製作する川下側が連携して、地域の木が地域で使われる仕組みづくりを2021年度から開始しました。

具体的には、北アルプス地域で製材した板材等が、乾燥の仕方(天然乾燥、ビニールハウス乾燥、人工乾燥)で、木工作品にどのような差が生まれるかを木工作家やユーザーに体感してもらい、人工乾燥を行わなくても作品として成り立つかを模索しました。

その後、川上側の丸太、川中側の板等の在庫情報を発信し、川下側が求めているものとのマッチングができるような仕組みづくりを行うように。
この他に、地域での木材の需要を増やすため、広葉樹活用フォーラム(先進地事例の勉強会)や製材マルシェ(製材を知ってもらうイベント)も実施。川上側・川中側・川下側の情報と人とが繋がることで、北アルプス地域で新たなビジネスモデルが構築されることを目指して、地域一体となって取り組んでいる事例です。

3.木曽地域における人材育成の取り組み

【地域と教育機関が連携して地域の担い手づくりを推進】

木曽地域では、林業・木材産業の振興を図るため、2018年に「木曽地域木材産業振興対策協議会」を設置。地域材の「高付加価値化に向けてのロードマップ」を策定し、産・学・官が協働し様々な検討を進めています。

さらに後継者の育成や、技術の伝承を進め、持続性・発展性の高い地域産業の振興を図るために、林業大学校、上松技術専門校、木曽青峰高等学校の教育機関と木曽地域振興局(企画振興・商工観光・林務課)による「木曽地域3校連携推進協議会」を設置。情報交換や連携の仕方づくりなどを行っています。

また、各校の卒業生の進路や地元企業の求人状況などの情報を交換し、各校間での授業や実習等の協力に向けた取り組みも実施されています。木曽青峰高等学校では、県教育委員会が進める高度な産業教育(インターンシップなど)を推進する「未来の学校構築事業」というものにも取り組んでおり、地域企業とともに将来の担い手づくりを進めている事例です。

参考:長野の林業 特集

森林を活かした分野別の取り組み事例【3選】


2ジャンル目の3事例をご紹介していきます!

【教育】
1.自然保育×園児「信州やまほいく」について

2015年4月に、信州の豊かな自然環境と地域資源を活用した、屋外を中心とする様々な体験活動を積極的に保育・幼児教育に取り入れる園として、長野県が独自に認定する「信州型自然保育(信州やまほいく)認定制度」が創設されました。
現在、信州やまほいく認定園(以下、「認定園」)は270 園も存在しています。(2023年8月現在)

制度を通じて自然保育の社会的認知や、県内の保育・幼児教育に携わる人が積極的に自然保育に取り組むことができたり、保護者が安心して子どもを託すことができる自然保育環境の充実を目指しています。

取り組みとしては、「特化型」(週15 時間以上の屋外体験活動)と「普及型」(週5 時間以上の屋外体験活動)の2種類が設けられています。一日の大半を自然の中で過ごす「特化型」と、他のプログラムと一緒に自然保育にバランスよく取り組める「普及型」を設定している点が大きな特長です。

制度創設に伴い、長野県では「人材育成、情報発信、財政支援」の3 つの柱を掲げ、認定園の運営安定化や保育人材の確保等を積極的に支援しています。

人材育成については、長野県が主催する自然保育研修交流会(年3 回程度)を開催するほか、希望する認定園に対して自然体験活動の専門指導者を派遣する事業等を行っています。

情報発信については、自然保育ポータルサイト「信州やまほいくの郷」を開設。認定園の保育事例を掲載するほか、長野県の取り組みを紹介するセミナー等を定期的に開催しています。

財政支援については、公的支援のない認定園を対象とした人件費の助成や、全認定園を対象とした自然保育活動のフィールド整備(整地、伐採等)費用の補助に加え、幼児教育無償化の対象とならない、認可外保育施設を利用する「保育の必要性の認定」のない世帯を対象とした保育料の助成事業を行っています。
【健康】
2.森林セラピーについて

長野県には、森林セラピーが10か所存在しています。

そもそも森林セラピーとは、森林浴による爽快感の向上など、癒し効果を体験できることです。
長野県には、森林浴を科学的に解明した森林セラピー基地と、森林浴を効果的に行う森林セラピーガイドなどがいることが特徴です。

▼活動していること
・森林メディカルトレーナーが、利用者の方と一緒に森に入って、森林療法や健康チェック、免疫療法等を行います。
・都市部の企業と真理が連携して、保健事業(メンタルリスクマネジメントやメタボ対策)や健康保険組合を通じた福利厚生事業、研修事業などで利用拡大を推進しています。
・宿泊施設の「癒しの森の宿」では、森林の中だからこそ新鮮な野菜や山菜を、薬草などを郷土食材とかけあわせて提供している。


3.ヘルスツーリズムについて

日本において、2018年からヘルスツーリズム認証プログラムというものがスタートし、長野県では以下4つのプログラムが認証されています。

(1)バディケアと300 年目に復興した信州巡礼 de 正しく楽しく元気に健康歩行
(2)木曽開田 高原健康ウォーキング
(3)なべくら高原 森林セラピー 散策
(4)健康いきいき診断プログラム 体力年齢アップ健康運動コース

ヘルスツーリズム認証とは・・・
「旅と健康」という新しい視点から、観光商品を客観的に評価する第三者認証サービスのことです。

プログラム内容、提供する事業者の取り組み体制において、「安心・安全への配慮」、「楽しみ・喜びといった情緒的価値の提供」「健康への気づきの促進」という3つの柱からヘルスケアサービスを評価・認証し、利用者がその品質を一目で分かるよう「見える化」。
ヘルスツーリズム認証が旅行選びの新たなスタンダードとなり、旅による健康増進へのきっかけを生み出すことを目的としています。

認証されることで、サービスの品質が第三者機関によって担保され、利用者にとって安心かつ安全なサービスとして位置づけることができます。こうした取り組みを進めていき、森林を活用していくことで地域活性化へとつなげています。

まとめ


長野県では林業を活用した地域活性化の取り組みが進んでおり、林業資源を有効活用することに注力していくことで、地域経済の活性化や若者の定住促進、自然保護などの効果を生みだしていくことにつながっていくでしょう。

また、地域住民や林業関係者が協力し、持続可能な林業の取り組みを進めていくことが必要であるとともに、今後も地域に根ざした林業の展開が求められます。長野県の取り組みを参考に、各地でも今後の地域活性化につなげていくことが重要でしょう。
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