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【事例3選】海外に学ぶ地方創生
第2弾~ドイツ編~

みなさんこんにちは、コラム担当のあらぽんです。
地方創生は、地域の経済や社会の発展を促進するための重要な取り組みです。その中でもドイツは、独自の手法で地方創生を進めており、世界的に注目を浴びています。
ドイツの地方創生には、農村地域の産業再生やデジタル技術の活用、若者の地域定住促進など、さまざまな要素が含まれています。
この記事では、ドイツの地方創生の具体的な取り組みを事例とともに紹介していきます。

地方創生とは?


地方創生とは、少子高齢化で人口減少している社会を改善し、経済格差を埋めるために取り組んでいくことです。
詳細は「地方創生ってそもそも何?」を参考ください。

ドイツはどんな国?


ドイツは、中央ヨーロッパに位置する国で、ヨーロッパ連合(EU)の一員です。人口は、約8,319万人(2020年9月時点)で、言語はドイツ語、首都は夏は過ごしやすく、冬は寒さが厳しいと言われるベルリンです。
独立国家としての歴史は古く、ホーエンシュタウフェン家やハプスブルク家などの王朝の支配を経て、現在の連邦共和制が確立されました。経済的にも政治的にも重要な国であり、グローバルな影響力を持っていると言われています。

ドイツは、高度な技術力と製造業の強さで知られており、自動車や機械工学、化学などの産業で世界をリードしています。ドイツの企業は品質と信頼性に優れており、世界中で高い評価を受けています。また、ドイツの大学は高い教育水準を誇っており、科学や研究分野でもリーダーとしての地位を確立しているのです。

また、豊かな文化や歴史的な遺産でも知られており、音楽家ベートーヴェンやバッハ、作家ゲーテやカフカなど、数々の偉大な芸術家や文学者を輩出している国としても有名です。現在も美しい城や古都が点在し、観光客には魅力的な場所がたくさんあるので、観光地としても有名であり訪れる方が年間を通して多いことが特徴です。

国際社会でも重要な役割を果たしており、国際連合(UN)や北大西洋条約機構(NATO)、G7などの組織に加盟しています。さらに、積極的な地球温暖化対策や人権の尊重など、国際的な問題に対しても貢献しています。
例えば、移民の大幅な増加にもかかわらず、ドイツ社会は統合して、多文化主義の理念を追求しています。言語や文化の多様性が広く受け入れられており、異なるバックグラウンドを持つ人々が共存している国です。

ドイツの地方創生に対する取り組み


特にドイツで注目されている、3つの事例を紹介していきます。
■農村地域の産業再生
ドイツにおける地方創生の重要な取り組みの1つ目は、農村地域の産業再生についてです。
農村地域は、人口減少や若者の流出などが進む傾向にあります。しかし、ドイツでは独自の農業集落再編成政策により、農村地域の産業再生を図っています。

この政策では、小規模な農家が協力して共同経営を行う取り組みが重視されています。農家同士の協力により、リソースや経済的な負担を共有し、生産性の向上やコストの削減を実現しています。農家たちは、農産物の品質向上やブランド化にも取り組んでおり、地域の特産品を活かしたマーケティング戦略を展開しています。

また、地域の産業再生においては、農業以外の分野への多角化も重要な要素となっています。
例えば、農村地域に工場や研究機関、観光施設などを誘致し、新たな雇用の創出や地域経済の活性化に取り組んでいます。これにより、農業だけに依存しない多様な産業が地方に定着し、持続的な成長に寄与しているのです。

さらに、地域住民の参加や協力も地方創生において重要な要素です。
地元の住民や地方自治体、企業といったさまざまなステークホルダー(間接的な利害関係を有する者)が協力してプロジェクトを推進しています。地域のニーズや課題を共有し、共に解決策を見つけることで、成果はより持続的かつ効果的に実現されています。

農村地域の産業再生の取り組みは、地域資源や特産品を活かした共同経営や多角化、地域住民の参加といった要素が取り入れられています。そしてその成果が、地域の経済や社会の再生につながっています。
日本の地方創生においても、ドイツの取り組みを参考にしながら、地域の特性や課題に合った地方創生策を検討することが重要となり、学べることがあります。
■デジタル技術とイノベーション
2つ目は、デジタル技術とイノベーションの活用についてです。
デジタル技術は、地方の経済成長や持続可能な開発において非常に重要な役割を果たしています。

例えば、農業や製造業などの伝統的な産業において、デジタル技術を導入することで効率化が進んでいます。
事例としては、スマートファーミングシステムを導入することで、農家は作物の管理を効率化し、生産量や品質の向上を実現しています。また、自動化技術やIoTを活用した製造プロセスの最適化により、地方の製造業も競争力を高めることができます。

また、地方のスタートアップ企業や研究機関と連携し、新たなビジネスモデルやサービスの開発に取り組んでいます。
例えば、地方の観光業においては、VRやAR(拡張現実)を活用した体験型の観光サービスが登場しています。これにより、地域の魅力をより多くの人々に発信し、観光産業の成長を支援することにつながっています。

さらに、地方コミュニティへの参加や相互交流も促進されています。
地域住民が、クラウドファンディングやクラウドソーシングを通じて、地方プロジェクトやビジネスを支援する取り組みが広がっていたり、SNSを活用した地域の情報共有やコミュニケーションも行われています。

デジタル技術とイノベーションの活用により、地方経済の活性化や持続可能な開発の実現など、多くの成果につながっています。
■若者の地域定住促進
3つ目は、若者の地域定住促進についてです。
若者が地域から流出してしまうことは、地域経済や社会の持続的な発展を脅かす要因となっています。そのため、ドイツではさまざまな取り組みが行われています。

(1)若者が地域に定住するために環境整備をすること
地域の生活環境の充実を図るために、教育や医療などの基本的なインフラの整備に力を入れています。また、文化に触れるイベントやスポーツ施設などの活性化も行うことで、地域を盛り上げています。

(2)若者のための仕事や起業の機会を創出すること
若者が地域での就業機会を見つけやすくするために、地域企業との連携やスキルを身に着けるための支援を行っています。起業家精神を育むプログラムや助成金制度もあり、若者が事業を始めることに対して積極的な支援もしています。

(3)若者の参加と意見の反映を重視した地方政策の実施
若者が地域の発展に関わることを奨励し、彼らの声を政策決定に反映させるために、若者向けの意見交換会やフォーラムが開催されています。これによって、若者は地域の未来について積極的に関与し、地域への参加意識を高めることができます。

若者のエネルギーや創造性を活かせるよう、自治体や関係機関、地域住民が連携して取り組むことで、地方創生化へとつながっていきます。

ドイツを代表する発展を遂げている地域【事例3選】


今回は、レーゲンスブル、ハイルブロン、エアランゲンの事例を紹介します。
(1)レーゲンスブル
\若者が学びたい!働きたい!と国内外から思ってもらえる街づくりの推進/

人口約15万人以上(2019年時点)が暮らしているレーゲンスブル。 1960年頃まではあまり活気のない街でしたが、レーゲンスブルク大学の設立を機に魅力あふれる街づくりを行ったことがきっかけで、以降、1人当たりのGDPがバイエルン州内では1位、ドイツ国内では6位と、経済的に強い自治体となりました。

このように成長できた背景には、市経済の主体である中小企業を強い企業にするために、大学を中心とした産業クラスター(※注1)を構築したことが要因となっています。また、近郊のチェコやオーストリアなどの地域と差別化を図るために、付加価値の高い製品を産み出せるようにと市政府が支援も行い、その結果、経済的に強いと言われるようになりました。

また、2006年に景観の美しさから世界遺産に登録されたことで、レーゲンスブルで学んで、就職をしたいと思う若者が多くなりました。
産業政策においてレーゲンスブルク大学の果たした役割は大きく、若者が集まる街づくりが推進されたと言われています。多くの優秀な若者が集まることで、レーゲンスブルク市内で就職してくれる若者が増加し、地域活性化へと繋がっていきました。

※注1:産業クラスターとは・・特定分野における関連企業、専門性の高い供給業者、サービス提供者、関連業界に属する企業、関連機関(大学、規格団体、業界団体など)が地理的に集中し、競争しながらも同時に協力している状態のこと。
(2)ハイルブロン
\地元で生まれ育ち、地元で働く将来の担い手を創出/

人口約12万人以上(2019年時点)が暮らしているハイルブロン。
ハイルブロンは、農産物が集中している都市として栄え、現在では大産業集積都市(※注2)にまで成長を遂げています。
ポルシェやボッシュなどの大手製造メーカーが研究開発拠点を置いており、続々と起業家たちが輩出されています。そうした人たちが、地元で新しいビジネスを起こして産業集積(※注3)を形成。グローバルサプライヤー(※注4)となって地域の所得や雇用に、いい影響をもたらしていることが特徴です。

人材輩出の背景には、拠点となる大学を地場の企業が新たに設立をしていることにあります。
もともと、ハイルブロンには優秀な人材を輩出できるほどの大学はなく、どうしたら市内で人材を確保できるかという課題に直面していました。

そこで、自分たちで人材を養成していこうと地場の企業が立ち上がり、ドイツ各地の店舗経営者を育成するために大学を設立。経済団体も学生に技術の重要性を教える啓発活動を積極的に行っています。
地場の企業をはじめ、みんなが協力体制であることが重要であり、地域を発展させていくために手を取り合っていくことが大切です。

公的な大学や研究機関に依存し続けるのではなく、内部から人材を育成して輩出していくことで、将来地元で経営者として地域を牽引してくれる人を増やしていけるのです。

※注2:大産業集積都市とは・・多様な企業や企業活動に関連する諸組織が集中している地域
※注3:産業集積とは・・特定の地域内に多数の企業が立地することと、受発注取引や情報交流、連携などの企業間での関係がある状態
※注4:グローバルサプライヤーとは・・世界的な供給業者
(3)エアランゲン
\地域医療の企業が学生と関わり、地域医療に携わる人材を持続的に増やす取り組み/

人口約11万人以上(2019年時点)が暮らしているエアランゲン。
代表的なグローバル企業のシーメンスヘルスケアの本社がある都市として有名です。
また、トップレベルの医療人材を輩出しているのが、エアランゲン・ニュルンベルク大学で、その存在感はドイツ内でも大きいとされています。

エアランゲンの高い生産性と所得の実現、多くの雇用創出へとつながっている背景には、民間の研究機関や中小企業との間に、ビジネス創出をする仕組みを構築させたことだと言われています。

医療分野の企業が多く集まる北部のフランケン地方において、民間企業やNPO法人、国や地方自治体、大学や高校などの教育機関が、医療部門の起業家たちを育成できるプログラムを実施。その結果、将来の起業家を輩出することへとつながり、数多くの企業がエアランゲンに増えました。

さらに、シーメンスヘルスケア社などの大企業が、新規事業化に向けた仕組みづくりとして、大学や中小企業の研究成果を取り入れています。
具体的には、シーメンスヘルスケア社が大学の講座の中で課題を出し、学生たちのアイデアをコンペするということを実施。そこで成果を出したいくつかの内容が、シーメンスヘルスケア社の事業化に繋がっています。学生側は、この表彰が将来、シーメンスヘルスケアへの就職の一歩となるので、必死になってアイデアを考案しています。

こうした取り組みを大学の講義で体験でき、学生の時から企業と関われる経験は、早い段階から事業に興味関心を持つ人材が増えることに繋がります。そして、地域医療に携わる人材を今後もより多く輩出することができるでしょう。

まとめ


ドイツの地方創生は、農村地域の産業再生、デジタル技術の活用、若者の地域定住促進など、多岐にわたる取り組みを展開しています。
農村地域では、農家同士の協力による共同経営や生産性の向上が実現されています。
デジタル技術は、地方企業の競争力を高め、持続可能な開発を支えています。
また、若者の地域定住促進には、基本的なインフラの整備や文化・スポーツの活性化が重要な役割を果たしています。
ドイツの地方創生は、他の国や地域での取り組みにも大きな示唆を与えるものであり、海外での学びや設計に生かすことができるでしょう。